ダッパン」の勧め、「褌で身も心も開放的に」


 褌(ふんどし)の装着感に魅了された埼玉県小川町大塚のカフェ店主・山崎まことさん(50)が、麻布に草木染などを施した手製の普及に奮闘している。「腰ひもをキュッと結べば身も心も引き締まる」。 

4年前の出会いから、冷たい視線に耐えて活動。大手メーカーの女性用褌の登場などで、ようやく追い風が吹き、「ダッパン者」がじわじわ増えている。型破りだった坂本龍馬らの決意と、パンツを捨て去る覚悟を指す業界用語という。

地元のギャラリーでは、26日まで山崎さんの「作品展」が開かれていた。壁にはタペストリーのように、白や緑など色彩豊かな褌約10本が飾られている。短めで初心者向けの越中褌を中心に、定番の赤フン、家紋付き、アロハ系……。「麻に綿を混ぜたのは肌触りがいいんです。快適ですよ」。山崎さんは作品をいとおしそうになでた。


 高知県で2006年秋に行われた環境イベント。好奇心から会場で販売されていた褌を
 手に取り、生まれて初めて締めてみた。腰のひもをへその下で結ぶと、不思議と心が  

落ち着いた。開放感と抜群の通気性に取り付かれ、個人用として取り寄せるようになった。

愛着は深まり、翌年には、自分に合った1本を、と手作りを始めた。天然素材にこだわって麻の栽培も夢見たが、免許の取得が難しく、麻布を扱う東京都の卸問屋と取引。裁縫が得意な妹さんに手伝ってもらいながら、独学で試行錯誤を続けた。

良い物はほかの人にも勧めたくなる性分だ。年20回ほど、県内外で開かれる健康や環  境保全を目的としたイベントに足を運んだ。しかし会場で褌を広げると失笑を買い、公衆浴場ではいぶかしけに見つめる視線を浴びた。「一度は忘れられた下着。理解してもらうのは難しかった」

風向きが変わったのは最近だ。女優の益戸育江さんが愛用を告白。08年12月には、

「ワコール」(京都府)の子会社が、女性用褌「ななふん」を発売。

今年の3月までに計約1万2000枚を売り上げるヒット商品になった。

「サイズが1つで、プレゼント需要も高い」とワコールの広報担当者は話す。

イベント会場での売れ行きから、褌の理解が広がりつつあることを実感する。これまで
500本以上を販売。全体の4割近くは女性客が占める。ときがわ町の愛好者豊田富美子さん(47)は「リラックスできるし、おしりを包み込むので温かい。冷え性なので助かる」と満足している。


山崎さんは29日から、経営するカフェ「パシフィカ」で、自作の褌を並べた常設コーナーを設ける。「気持ちも体も開放的になるところにほれ込んだ。ぜひ着けてもらいたい」と山崎さん。初めて購入する客には、こう語りかける。「ダッパン、おめでとうございます」

                                    (読売新聞 2010年4月29日)